早期退職・希望退職のリスクと家計への影響——退職金だけで乗り切れるか
早期退職制度で受け取れる退職金の相場と、再就職までの空白期間に家計はどう耐えるか。備えるべきポイントを解説。
早期退職・希望退職とは何か
企業が人員削減や事業再編を目的に、通常の定年より前に退職を促す制度が「早期退職優遇制度」「希望退職制度」です。会社都合ではなく形式上は「自己都合」に近い扱いになるケースもありますが、多くの場合は退職金が上乗せされる代わりに、労働者自身が「応募するかどうか」を選ぶ立場に置かれます。2020年代以降、業績が堅調な大企業でも実施される例が増えており、45歳以上の会社員であれば誰にとっても他人事ではないリスクになりつつあります。
退職金はどれくらい上乗せされるのか
早期退職制度における割増退職金の相場は、通常の自己都合退職金に対しておおむね20〜50%程度の上乗せ、または「基本給の12〜36ヶ月分」を追加支給するパターンが一般的とされています。企業規模や制度設計によって差が大きく、大企業では月収の2〜3年分がまとまって支給される例もある一方、中小企業では数ヶ月分にとどまることも珍しくありません。まとまった金額に見えても、再就職までの生活費・住宅ローン・教育費を差し引くと、実際に「自由に使える余剰」は想定より少なくなりがちです。
再就職までの空白期間はどれくらいか
厚生労働省の雇用関連統計や民間の転職調査を総合すると、45歳以上の早期退職者が正社員として再就職するまでの期間は、平均で6ヶ月〜1年程度かかるケースが多く、管理職経験者や専門職以外は長期化しやすい傾向があります。この間の収入は次のように限定されます。
- 雇用保険の基本手当(失業給付):離職前賃金の約50〜80%が90〜150日分。ただし自己都合退職とみなされると給付開始まで原則2ヶ月の待期期間がある
- 割増退職金の取り崩し:生活費に充当すると老後資金として想定していた分が目減りする
- 再就職支援サービス:企業が提携する転職エージェントを利用できる場合もあるが、必ずしも希望条件と一致するとは限らない
家計シミュレーションで見える危険ライン
仮に月の生活費が30万円の世帯で、退職金の上乗せ分が400万円、失業給付が月15万円程度受け取れるとすると、単純計算では1年程度は生活を維持できるように見えます。しかし住宅ローンの返済(月10万円前後)や子どもの教育費、社会保険料の全額自己負担(在職中は会社と折半だった分が退職後は国民健康保険・国民年金として全額自己負担になり、年間数十万円規模の負担増になることも)を加味すると、想定していたより早く貯蓄が底をつくケースが少なくありません。
備えとして今からできること
- 生活防衛資金を生活費の6ヶ月〜1年分確保する:早期退職の打診がなくても、いつでも動けるようにしておく
- 社会保険料の自己負担額を事前に試算する:国民健康保険・国民年金への切り替えでいくら負担が増えるか把握しておく
- 在職中から市場価値を確認しておく:転職サイトへの登録やスキルの棚卸しを、制度対象になる前から進めておく
- 住宅ローンの返済比率を見直す:収入が途絶えても数ヶ月耐えられる返済額に抑えておく
退職金にかかる税金にも注意する
退職金は「退職所得」として扱われ、給与所得より税負担が軽くなる仕組み(退職所得控除)がありますが、勤続年数が短いほど控除額も小さくなります。勤続20年以下の部分は1年あたり40万円、20年超の部分は1年あたり70万円が控除される計算式になっており、たとえば勤続15年で退職した場合の控除額は600万円です。割増退職金を含めた総額がこの控除額を超えると、超えた部分の2分の1に対して所得税・住民税が課税されます。「額面上の退職金」と「実際に手取りとして残る金額」には差があることを踏まえて資金計画を立てる必要があります。
ケースで見る家計シミュレーションの例
40代・会社員(世帯月収40万円、住宅ローン残債2,000万円)が早期退職制度に応募し、割増退職金500万円を受け取った場合を想定します。手取りベースで450万円が確保できたとしても、月30万円の生活費を貯蓄のみで賄うと約15ヶ月で底をつく計算になります。ここに失業給付(月15万円程度、給付期間3〜5ヶ月)と社会保険料の自己負担増(年間30万円前後)を組み込むと、実際に「無収入でも安心して過ごせる期間」は10〜12ヶ月程度に縮まるのが実情です。この期間内に再就職できなければ、貯蓄の取り崩しや住宅ローンの返済猶予・借り換えといった追加の対策が必要になります。
まとめ
早期退職・希望退職は「まとまった退職金がもらえる制度」という側面だけでなく、「再就職までの空白期間をどう乗り切るか」という家計リスクでもあります。制度の対象になってから慌てて計算するのではなく、平時から生活防衛資金と社会保険料の負担増を織り込んだシミュレーションをしておくことが、いざというときの選択肢を広げることにつながります。
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